十八史略の人物学より9
秦王をへこまして帰ると、藺相如はその功績をかわれて上席家老の位につき、
レンバ将軍の上になった。レンバとしてはまことに面白くない。そこで次のように言った。
「わしは趙の武将として、千軍万馬の功があるのに藺相如はただの口先だけの働きで、
わしの上につきおった。奴はもともと卑賤の出のくせに、まことに生意気千万な所業じゃ。
今度あったら、きっと、赤っ恥をかかせてくれる」
…レンバが怒っているのをきいた藺相如は、できるだけ顔をあわせるのを避けた。
朝廷に出仕して、レンバに逢いそうなときには、病と称して欠席し、
外出の折にも、はるかにレンバををみかけると、車を脇道へひき入れてかくれた。
このため、藺相如の家臣たちが口惜しがって口々に主人にうったえた。
「わたしどもが、こうして、あなたにお仕えしているのは、
あなたのご高義を慕っておればこそでございます。
しかるにご主人はレンバ将軍を避けて逃げかくれなさる。
これは凡愚の者でも恥じるところ、あまりに意気地のないことではありませんか」
…藺相如は静かにさとした。
「わたしが秦王を叱りつけたことは、お前たちも知っていよう。
いくらわたしが愚鈍であるからといって、どうしてレンバ将軍を恐れよう。
よくよく考えてみたまえ。あの強暴な秦が、わが趙に戦争をしかけてこないのは、
このわたしとレンバ将軍がいるからだ。
もし、いま、その両虎が闘ったなら、勢いの赴くところ、ともには生きられまい。
わたしが敢えてレンバ将軍を避けるのは、国家のことを先にして、
個人的な恨みつらみを後にすべきだと思うからだ」
…これを伝えきいたレンバ将軍は、肌脱ぎになって茨を背負い、
藺相如の邸に赴いて罪を詫び、以来、二人は生死を共にすることを誓いあった。
レンバ将軍の上になった。レンバとしてはまことに面白くない。そこで次のように言った。
「わしは趙の武将として、千軍万馬の功があるのに藺相如はただの口先だけの働きで、
わしの上につきおった。奴はもともと卑賤の出のくせに、まことに生意気千万な所業じゃ。
今度あったら、きっと、赤っ恥をかかせてくれる」
…レンバが怒っているのをきいた藺相如は、できるだけ顔をあわせるのを避けた。
朝廷に出仕して、レンバに逢いそうなときには、病と称して欠席し、
外出の折にも、はるかにレンバををみかけると、車を脇道へひき入れてかくれた。
このため、藺相如の家臣たちが口惜しがって口々に主人にうったえた。
「わたしどもが、こうして、あなたにお仕えしているのは、
あなたのご高義を慕っておればこそでございます。
しかるにご主人はレンバ将軍を避けて逃げかくれなさる。
これは凡愚の者でも恥じるところ、あまりに意気地のないことではありませんか」
…藺相如は静かにさとした。
「わたしが秦王を叱りつけたことは、お前たちも知っていよう。
いくらわたしが愚鈍であるからといって、どうしてレンバ将軍を恐れよう。
よくよく考えてみたまえ。あの強暴な秦が、わが趙に戦争をしかけてこないのは、
このわたしとレンバ将軍がいるからだ。
もし、いま、その両虎が闘ったなら、勢いの赴くところ、ともには生きられまい。
わたしが敢えてレンバ将軍を避けるのは、国家のことを先にして、
個人的な恨みつらみを後にすべきだと思うからだ」
…これを伝えきいたレンバ将軍は、肌脱ぎになって茨を背負い、
藺相如の邸に赴いて罪を詫び、以来、二人は生死を共にすることを誓いあった。